
はじめに
現在の日本社会は、世界に類を見ないスピードで超高齢社会へと突入しています。
そんな中、「移動が困難な方」の通院・買い物・役所への手続き等、日常生活における“足”をどう確保するかは、自治体・地域・福祉関係者共通の課題と言えます。
そこで近年、注目されているのが「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」という制度です。
本記事では、制度の仕組み、開業手続き、許可要件、対象者の条件、実務での注意点等について解説いたします。
「福祉輸送事業限定」とは?
本制度は、道路運送法第4条に基づく「一般乗用旅客自動車運送事業」の一形態です。
一般的なタクシー業務とは異なり、あくまでも公共交通機関の利用が困難な方々に限定した輸送を可能にする制度です。
タクシーが「すべての人を対象とする自由な旅客運送」であるのに対し、福祉輸送事業限定は対象者・営業方法が厳しく制限されており、「公益性の高い移動支援」として機能します。
利用できる対象者は?
以下のような方が「利用対象者」となります。
利用対象者
●身体障害者手帳の交付を受けた方
●要介護(支援)認定を受けた方
●単独での公共交通機関を利用することが困難と認められる方(例:内部障害、知的障害、精神障害等)
●消防機関、コールセンターからの依頼により患者等搬送を行う場合(民間救急輸送)
いずれの対象者も、単なる“乗客”ではなく、安全・安心な移動支援が求められる配慮を要する方々です。
また、これらの方々に付き添う家族や介助者の同乗も認められています。
営業方法の制約とその意義
福祉輸送事業は、あくまで「特定の対象者に、必要な時・必要な場面で輸送を提供する制度」であるため、一般のタクシー営業とは明確に区別されています。
制限内容 | 意義 |
●流し営業禁止 | 道路上での客持ち、走行中の乗客乗せは不可 |
●タクシー乗り場使用禁止 | 駅前、病院のタクシー乗り場での待機は不可 |
●電話予約・営業所での受付のみ | 完全予約制に近い形態 |
●一般の健常者輸送不可 | 利用者は厳密に「移動困難な方」に限られる |
これらの制約は、一般タクシーとの競合を避け、制度の公益性を担保するためのものであると同時に、地域内でのバッティングやトラブル防止にも役立っています。
使用可能な車両と対応要件
福祉輸送事業に使用できる車両は、大きく分けて以下の2つです。
①福祉車両(リフト・スロープ付き等)
●車椅子・ストレッチャーのまま乗車可能
●移乗装置や寝台がついているタイプも可
●車体に「福祉輸送事業限定車両」の表記義務あり
②一般車両(セダン型等)
●利用対象者の状態によっては、一般車両でも可
●この場合、乗降時の介助や補助に関して、次のいずれかの有資格者が運転または同乗することが求められます。
資格区分 | 説明 |
●全国福祉輸送サービス協会の講習修了 | 専門機関による福祉運送の研修修了者 |
●介護福祉士 | 国家資格。身体介助の専門知識あり |
●訪問介護員(旧ホームヘルパー) | 初任者研修修了等の介助資格 |
●サービス介助士 | 民間資格。待遇と安全輸送知識に特化 |
運賃の構造と設定の考え方
①ケア運賃(基本運賃)
●一般的な輸送に適用される
●通常のタクシーと同様に距離制・時間制等で設定可能
②介護運賃
●訪問介護サービスと一体的に行う輸送に適用
●介護保険に基づくケアプランの中で提供される輸送支援
●申請には訪問介護事業所の指定が必要
③民間救急運賃
●消防機関または専用コールセンターを通じた患者輸送時に適用
●ストレッチャー対応車等、医療的配慮のある輸送に使われる
設定にあたっては、都道府県ごとに認可された基準に基づく必要があり、適正かつ合理的な根拠が求められます。
また、営業開始前に運賃認可申請を行う必要があります。
管理体制と体制整備
事業を開始する前に、以下の3つの管理者を選任し、届け出る必要があります。
種別 | 役割 |
●運行管理者 | 運転者の勤務・点呼・健康管理等の統括責任 |
●整備管理者 | 車両の整備・点検の計画管理 |
●指導主任者 | 安全運転や法令遵守に関する教育指導を行う |
これらは兼任も可能ですが、実際の業務量や責任を考えると、運営開始前にしっかりと担当体制を定めることが求められます。
許可取得の流れ
事前相談(地方運輸支局)
申請前に運輸支局へ相談し、事業計画が制度に適合しているかを確認します。書類の準備内容や対象旅客の妥当性などを確認する重要なステップです。
書類提出(申請書、資金計画、営業所・車庫の情報、役員情報等)
申請書や営業所・車庫・車両・資金に関する書類を提出します。不備があると補正が必要となるため、正確かつ丁寧な準備が求められます。
審査(場合によって公益性・事業計画の整合性を確認するためのヒアリングあり)
※審査中に法令試験の実施
提出書類に基づき、制度趣旨や公益性との整合性を審査されます。必要に応じて申請者に対し口頭での説明が求められることもあります。
運送業に関する法令知識の有無を確認する試験であり、この試験に合格しないと許可は取得できません。事前学習が重要です。
許可取得
審査・試験に合格すると、運輸支局から正式に許可が下ります。
ただし営業開始には運賃認可や管理体制整備などの追加手続きが必要です。
事業開始の準備
運賃の認可、管理者の選任、保険加入、車体表示などを行い営業開始に備えます。
法令に基づく体制整備を確実に進めることが求められます。
法令試験の概要と対策
【試験の目的】
●申請者が、運送業を行う上で必要な法令知識(安全・適法な事業運営の基礎)を有しているかを確認するために実施されます。
【対象者】
●申請者本人
【試験形式】
●筆記試験
●主に運送業に関する法令・制度についての出題
【合格基準と対策】
●正答率70%が目安とされています。
●自動車六法を使用し、道路運送法及び関係政省令の条文の理解を深めることが望ましいです。
最後に
今回は、一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)について解説させていただきました。
許認可等の専門家である行政書士ご相談いただければ、丁寧かつ慎重にヒアリングを行った上で、申請から許可取得まで手厚くサポートさせていただきます!
また、福祉輸送事業限定の事業者にも活用可能な補助金として、「交通DX・GX補助金」が実施予定となっています!(※令和7年4月7日現在)
車椅子対応車両やリフト設備の導入、配車システムのデジタル化、EV車導入などに対し補助が受けられます。
利用者にとって安全・快適な輸送環境を整えつつ、事業の持続性向上にもつながる好機ですので、福祉輸送の質を高めたい方は、この補助金の活用も併せてぜひご検討ください!(※詳細はこちらの公式サイトをご確認ください。)
投稿者プロフィール

- はなまる行政書士事務所 代表
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